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第47回日本小児歯科学会参加報告
2009年5月14日・15日 大阪大学コンベンションセンター テーマ:原点に戻って
今回の学会は、新型インフルエンザの国内発生で揺れる大阪で行われたが、大きな混乱もなく順調に進み、テーマに示されたように「原点に戻って」これまでの歩みを振り返り、新たな一歩を踏み出すものとなった。
私が注目した発表は二つあるが、その二つとも学術展示で発表されたものだった。その内容について報告したいと思う。
静岡県立大学短期大学部歯科衛生士学科 講師 木林美由紀
木林先生は、文部科学省が毎年実施している新体力テストに現れたデータを基に、子どもたちの体力と咀嚼能力との間に相関関係があるかどうかを調べられた。
私が知る限り、これまで、このような研究はなかったように思う。咀嚼能力が体力テストのどのような項目と関連してくるかを探るというのは、非常に興味深いものだった。
調査にあたって、木林先生は、咀嚼力を、ガムの咀嚼を行って溶出する糖量、つまり糖溶出率を測定することによって行っている。具体的には、キシリトールガムを40秒自由咀嚼した際の溶出する糖量の割合を測定されたようだ。
この咀嚼力の測定について、先生は、間接的測定法も併用された。間接的測定法というのは、咬合力感圧フィルムデンタルプレスケールを使用し、オクルーザーから構成されるシステムによって、咬合面積や平均咬合圧、最大咬合圧、咬合力といった項目を検査する、咬合力感圧フィルムを使用したものである。
余談になるが、測定法には、ガムの色が変わることを利用した測定法もある。これは、「色変わりガム咀嚼検査」と呼ばれているが、ガムを2分間咀嚼してもらい、色の変化をカラーリーダーで読み取って測定するというものだ。
さて、この咀嚼力との関連性を調べる体力テストだが、それにはいろいろの項目がある。その中で、どの項目と咀嚼が関わってくるかを調べた結果、唯一優位な結果が出て、関連が見られたのは、柔軟性の項目であり、長座体前屈であったという。
どうして、咀嚼と柔軟性が関連があるのかについては、まだわからないが、思ってもみない項目と関連があったことに興味を惹かれる。
この発表を通して、私が一番注目したいのは、木林先生が、通常学校において経年的に行われている体力テストに着目されたことであり、そこで調査されたデータと咀嚼というものの関わり合いを調べたことである。疫学データというものは、研究をする上で、とても信頼性の高いデータとなる。今回の場合、この体力テストには、日本人の小学生の標準的な能力が現されている。
体力テストの活用については、別の意味でも注目してよい点がある。それは、この体力テストは文部科学省で行っているが、文部科学省としては、予算を計上している以上、このような調査の有効性をアピールしたいと考えていることである。そのために、国からお金がもらいやすいということがある。非常に現実的な話であるが、これは重要なことである。資金もなしに十分な研究をすることは難しい。
話が少し本題を外れたが、今後、このような一見なんの関係もないような疫学データと我々が見ている臨床的なデータとの突合せを行い、関連性を見てゆくというのは、非常に重要なことだと思う。
ことに、今回の場合のように、新体力テストというのは、小学校学習指導要綱に基づきしっかり行われているものであるし、咀嚼についても糖の溶出率を計り、きちんとデータ化して、それを統計処理において重回帰分析等によって十分に検討が行われていることは、十分評価されてよいことであると思う。
広島大学小児歯科 海原 康孝先生
この発表の中で、海原先生は、私が開発した方法を紹介してくださっている。その詳細については、添付の資料を見ていただいた方がよいと思う。是非、治療にあたっての参考にしていただければ幸いである。(院長/里見 優)